テーマ展示Ⅲ 大佛次郎、雑誌「苦楽」を発刊す

大佛次郎は1946年(昭和21)9月に苦楽社を興し、〝成人の文学 ″を築くため、11月に雑誌「苦楽」を創刊しました。〝公明で自由な未来の世界 ″を志し、誌面に時世への批判と日本文化に対する再認識の姿勢を示し続けました。「苦楽」誌は全45冊(月刊33、海外版7、別冊1、臨時増刊4)を刊行し、1949年(昭和24)9月、終刊しました。大佛次郎が戦後の日本をどのように考え、乗り切ろうとしたかを「苦楽」及びその兄弟誌「天馬」(ペガサス) を通し探ります。「苦楽」誌は、毎号の表紙を鏑木清方で飾り、創作、挿画とも大家を揃えての贅沢な雑誌でした。昨年受贈した「苦楽」 「天馬」誌掲載作品の挿絵・原画等(初公開作品が多数あります)も併せて展示し、苦楽社の全容を紹介します。

苦楽 S21.11月号 創刊号 表紙

苦楽 S21.11月号 創刊号 表紙

 

 苦楽 創刊号(1946年11月号) 目次

苦楽 創刊号(1946年11月号) 目次

 

海をわたる「苦楽」

大佛次郎は1948年(昭和23) 3月、当時の出版規制下「苦楽」の海外版が「日本の復興に資する結果となるならば、仕事の為甲斐もある」と取り組み、アメリカ向けの“海外版”を七冊発行しました。海外版は配給により用紙が確保されており、1948年3月発行の第1号は国内版の四倍近いページ数でした。日本の現状を伝えるとともに多彩な内容で読者を楽しませました。

上村松園画「晴れ間」 「苦楽」海外版(1948年10月)の折込口絵の原画

上村松園画「晴れ間」 「苦楽」海外版(1948年10月)の折込口絵の原画

 

兄弟誌「天馬」(ペガサス)

「天馬」は、「苦楽」の兄弟誌として1949年1月に創刊しました。従来から少年向けの雑誌に読むべきものがないのは不幸、と考えての出版でした。しかし、苦楽社は経営困難な状況であり、「天馬」は6冊のみの発行で終刊しました。暗い戦後を少年たちが心身ともに健やかに乗り切って欲しいと願い、毎号グラビアで野球選手の活躍を紹介しました。

 

 「苦楽」「天馬」をめぐる人々

大佛次郎の交友関係は、一文壇に限りませんでした。歌人、俳人、学者、画家、演劇、映画関係等の自分とは違う世界の人たちと心を開いて交際することを好みました。その幅広い分野にわたる交友関係は、そのまま「苦楽」の誌面に反映されています。

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とにかく当時街にはんらんした横文字に目もくれなかった。寄稿家も私が一番若い方で、老大家ばかりが中心となって、異彩を放った。小杉天外、高浜虚子、上司小剣、森田草平、その他で、国文学者、民俗学者の折口信夫さんが脚本を書き、歌舞伎俳優の個々の思い出を綴ったのだから、芝居もまだ開かない内に、思い切った打って出様であった。柳田国男さんの随筆も載った。名作とされた虚子の「虹」三部作も、この雑誌に出たものである。

大佛次郎「安鶴さんと『苦楽』」(昭和45年9月)より

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「虹」背景透明

菊池寛の「新今昔物語」を掲載した「苦楽」 1947年7月号と 吉村忠夫画挿絵原画

菊池寛の「新今昔物語」を掲載した「苦楽」 1947年7月号と 吉村忠夫画挿絵原画

 

「坐雨廬」 木額 “坐雨廬”は、大佛次郎が「苦楽」編集後記で用いた号。額は小野鍾山、次いで大佛次郎が所蔵していた。

「坐雨廬」 木額
“坐雨廬”は、大佛次郎が「苦楽」編集後記で用いた号。額は小野鍾山、次いで大佛次郎が所蔵していた。

≪主な展示予定資料≫  *印は、初公開作品

  (一部、展示替えをいたします。あらかじめご了承ください。)

・大佛次郎直筆-原稿「猟奇館瓦解記」「鞍馬天狗 新東京絵図」「まぼろし等奇談」

        ノート「紀伊の旅」「秋風帖」

・その他の作家直筆原稿-加藤武雄「大佛次郎君」、鏑木清方「名作絵物語 金色夜叉」

・「苦楽」表紙絵の原画-鏑木清方「ささらぎ」「あまのがは」「春を待つ」「高尾ざんげ」

     (1977年の初公開後から2度目の公開)

・「苦楽」誌面に掲載された名作絵物語の原画

     -小穴隆一「多情仏心」、鏑木清方「金色夜叉」『日本橋」、山下新太郎「腕くらべ」

・「苦楽」誌面に掲載された口絵の原画-上村松園「晴れ間」(*)、堂本印象「少女」

・「苦楽」扉絵の原画-山名文夫(*)

・「苦楽」誌面に掲載された挿絵の原画-生沢朗(*)、伊勢正義(*)、伊藤龍雄(*)、

   猪熊弦一郎(*)、江崎孝坪(*)、木下二介(*)、木村荘八(*)、

   鈴木信太郎(*)、鈴木朱雀(*)、寺田竹雄(*)、中村利雄(*)、

   松野一夫(*)、宮田重雄(*)、吉村忠男(*)

・「天馬」表紙絵の原画-萩須高徳「パリの風景」(*)

 ・「天馬」誌面に掲載された挿絵の原画-斉藤五百枝(*)、佐藤泰治(*)、三岸節子(*)

・「坐雨蘆」-木額・印章